「雷撃防護の基礎知識」
The "Grounding" for Lightning and EMP Protection
第16章:防犯カメラ
防犯カメラの雷撃防護では、カメラサイドと操作盤サイドの双方にプロテクトを行う必要があります。操作盤のある建物に落雷があると、サージのエネルギーは同軸線や制御線などを通してカメラのアースに流れ込み、機器に障害が生じてしまいます。建屋の周囲の土壌はサージのエネルギーを直ちに吸収してしまうので、一時的にポテンシャルが高い状態におかれるカメラとの間に電位差を生じてしまい、カメラがアースに逃げようとするエネルギーの通り道になって破壊されてしまいます。カメラを通るサージのエネルギーの通り道は、そのカメラの電源の接続状態によって変わります。
1:
120Vの商用電源が接続されている場合、同軸シールド線はカメラのケースにサージのエネルギーを伝えてしまい、カメラ内部の電源機器に障害を与えます。中心導体を通るエネルギーはシールド線と逆の極性を持ち、ビデオ出力端子を破壊します。
2:
同軸線やその他の独立したラインを用いて電源を供給している場合には、サージのエネルギーはB+ラインに障害をもたらし、商用電源を用いた1の場合よりも深刻な損害を与えます。
ここまで見ると、リモートで電源供給を行い、カメラの接地を行わなければ落雷からカメラを保護できると考えられますが、実際はそうではありません。カメラの接地を行わない場合、カメラの配線は長いアンテナ線として機能してしまい、比較的遠い場所で発生した落雷によるサージのエネルギーも電磁波を媒体として操作盤に伝達してしまいます。この場合、操作盤に設置してあるプロテクターが作動しますが、プロテクターによる接地回路が完全なものではない以上、残った一部のエネルギーがカメラの方に到達してしまいます。この時にカメラの側にプロテクターがなければカメラは破壊されてしまいます。
こうした理由によりカメラの回路の両端に接地されたプロテクターが必要になりますが、同時に接地回路のインピータンスを少なくともハムの生じないレベルに低く抑える必要があります。ハムやそれによる障害は同じアース間でも電位差が生じてしまうことによって発生します。電力線のアースから放出される60Hzの成分もこうした電位差の原因になります。アース線相互を接続するという方法はハムの発生を防ぐか、少なくとも軽減する働きはありますが、相互接続に用いるワイヤーをむき出しのまま埋設することによって、回路の両端におけるインピータンスはむしろ改善(減少)します。
もしこうした配線ができない場合、接地回路を流れるループ電流を食い止めるための、ハム防止回路を組み込む必要があります。こうした回路を構築する場合に必要となるプロテクターは少々違ってきます。通常のプロテクターをハム防止回路と同軸線の間に用いると、大規模な接地回路が必要になってしまいます。こうした場合には、サージが動作電圧を越えた時のみ導通する、独立接地タイプのプロテクターを用いることで、接地回路を流れるループ電流を防ぐことができます。
このハム防止回路を構築することができない場合には、回路のどちらかのサイドに独立接地タイプのプロテクターを使用して下さい。(多くの場合は操作盤/モニターサイドの接地の方がより良い条件が得られるため、独立接地タイプのプロテクターはカメラサイドに用います)このプロテクターは±2.8Vを越える電圧変動をプロテクトするビデオ用のDC回路を持っています。また。1本の回路が設定電圧を越えた場合、他の回路が設定よりも低い電圧に留まっている時にはそちらのプロテクター回路に切替えて接地パスを確保する機能も持ち合わせています。接地回路をループ電流が流れることで生じる接地システム構築の困難さは、この機能によって解決されています。
交流120Vや直流で電源供給を行うカメラの接地の必要性は以上の通りです。カメラの電力ラインのプロテクターは必ず回路のカメラサイドに設置し、交流120Vの場合は”Hot”と”Neutral”からカメラのアースに流れるエネルギーを、直流の場合はB+バスに生じる過電流をそれぞれプロテクトします。
操作盤のプロテクトでは、交流120Vの電力ラインに対するプロテクトが非常に重要で、これには2種類の防護措置が必要です。
第一の防護は、電力幹線に発生したサージが建屋に流入するのを防ぐものです。プロテクターは電力幹線が建屋に入射する地点のブレーカーボックスに設置します。
第二の防護は、操作盤にサージが流入するのを防ぐものです。このプロテクターは主配電盤から分岐した先に用いる分電盤にとりつけるため、第2電力線プロテクターと呼ばれます。(「第2」とは「重要性が小さい」という意味ではありません)プロテクターは操作盤のシャーシと接続し、操作盤が接地回路に接続されているのと同じ地点に設置することが重要です。このことでサージは操作盤のシャーシを流れることなく、プロテクターによって分岐された接地回路を通ってアースに達します。
最後に重要な注意点が2つあります。
カメラと操作盤が離れている場合、プロテクターと操作盤を結ぶ同軸ジャンパ線は1〜2回コイル状にループさせて下さい。これは雷撃によって生じた電磁場からエネルギーが誘導されるのを防ぐ目的があります。(コイルの直径は小さく(約7cm以下)するか、或いは鉄製のケースに収納してください)このコイルのインダクタンスによって、第2プロテクターによって分岐させられたサージは同軸線を通ってカメラのアースに達することなく、電力ラインの接地回路を通ってアースに達します。
カメラが設置されている不導体のポールには特殊な防護措置は必要なく、落雷の直接的なエネルギーを逃がす避雷針は、そのアースを直接大地に落とすだけで結構です。この場合、アース線から発生する電磁波によって悪影響を受けないために、カメラのケーブルをアース線から30〜40cm離すようにして下さい。このことでアース線とケーブルとの間に生じるサイドフラッシュを防ぐことができます。
サイドフラッシュは導体のインピータンスが原因で発生します。発生を完全に防ぐことは不可能ですが、ワイヤーの代わりに銅のストラップを用いることで軽減させることはできます。ストラップでは表面積が大きいため、インダクタンスも低減されます。またストラップの断面積は、避雷針に直接落雷があった時に溶けて破断しないよう、十分な断面積を持っていなくてはなりません。表皮効果により、サージ電流は表面から0.076mm以内の所にのみ流れます。一般的な落雷によるサージを流すためには、少なくともこの2.7倍にあたる0.206mmの厚さが必要です。平板は両面が使えるので、必要な平板の厚さは0.41mm(0.016インチ)ということになります。幅3.81mm、厚さ0.41mmの平板の断面積は、直撃のサージを流すのに十分な#6ゲージのワイヤーよりも大きく、また表面積も6倍になっています。
インダクタンスによって生じる L di/dt で表される電圧降下は、長さによっても変化しますが、ストラップを用いても100kVを越え、このサージが同軸シールド線を通って操作盤に押し寄せます。
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