「雷撃防護の基礎知識」
The "Grounding" for Lightning and EMP Protection
第12章:土壌のダイナミックテスト
もし地球が金属球で出来ていたならば、雷撃の放電は地球上に同心円状の電圧勾配を作り分散してしまうでしょう。しかし地球はそれほど良い伝導体ではないので、大地の持つ抵抗が電流が流れるのを妨げ、局所的に大きなエネルギーが解放され雷撃が発生します。
雷撃のエネルギーが接地回路のロッドから電導率の低い大地に逃がされる場合を考えます。ロッドの表面はある速度で帯電し、電場の強さが限界に達するとロッドから地中に放電が始まります。この放電はロッドの表面積が大きいほど大きくなります。そして放電が起こって帯電した電気が無くなってくると、ロッド先端の電場がアーク放電を維持できる強さよりも小さくなり放電は終了します。そして放電された電気は泥の粒子一つ一つの表面を伝わって土壌に拡散していきます。(帯電は碍子のような不導体の表面でも発生します。例えばガラス棒を絹の布でこすった後のような状態です)泥の粒子の不均一性により、電場にムラが生じ、低い電圧では放電を行うことが出来ません。
ここでsは長さ、Wは幅を表します。
速度係数は、光の速さ(λ)に依存します。この公式はアンテナ理論から導かれたものです。接地ロッドが電導性の悪い土壌に埋設されている場合は、ロッドが空気中にさらされている場合と等価と見なすことが出来ます。ロッドが放電を始める条件を考えるときには、ロッドのインダクタンスも考慮に入れる必要があります。これは以下の式によって求めることが出来ます。
VFは速度係数、sはロッドの長さをフィート単位で表したものです。
インダクタンスによって作られた強力な磁場によって誘起された大きな電圧降下は、
で表されます。
diは雷撃のピーク電流で、典型的な雷撃の場合18,000[A]であるとされています。またdtはピークまでの時間です。通常は2µsとします。
この式から、1本の接地ロッドが電導性の悪い土壌に放電するためには、ロッドの長さに上限が存在することが分かります。この上限とは、このインダクタンスによる電圧降下によって地表に近い部分で絶縁破壊が起こる状態を指します。
2本の長い接地ロッドが並列に接続されている場合は、全体のインダクタンスは小さくなります。この場合、2本のロッドの間隔は重要で、これによってロッドが放電できる土壌の有効体積が変わってきます。(また、2本のロッドの間隔が大きければ、ロッド間の相互誘導の影響は小さくなります)このロッドの放電範囲が重なり合ってしまうと、その範囲が電気的に飽和に、雷撃の短い時間内で流れ去る電流の通り道を邪魔しています。
十分に間隔をとった2本の接地ロッドの間にキャパシタンスメータを設置すれば、土壌を介した2本のロッドの静電容量を測定することが出来ます。土中に打ち込まれたそれぞれのロッドは電気的には絶縁されており、漏れの多いコンデンサのような働きをします。
以上に述べたように、接地回路は抵抗、コンデンサ、コイルの等価回路によって表すことが出来ます。この等価回路はちょうどロスの多い導線、あるいはローパスフィルターのような働きをします。(ここでは土壌の抵抗は導線の抵抗に比べて十分に大きいとして省略してあります)
ここでLとCが省略できるのはR→0の極限においてのみです。
非線形成を持つアークが発生するモードでない場合には、土壌は一定の値でモデル化することができ、LとCの値が分かれば速度係数(VF)を求めることができます。
もし土壌の電導率が全ての深さで一定ならば、サージインピータンスを計算で求めることは容易です。しかし実際はテスタを用いてサージインピータンスを実測して求める必要があります。
一般的なグラウンドテスタは抵抗計を改良したもので、70~100Hzの間で動作します。長さ10mのワイヤーは60Hzでは0.004Ωですが、100kV、18kAという雷電時の条件下では、同じ10mのワイヤーでも両端にはインダクタンスによって大きな電位差(E=L di/dt)が生じます。
土壌測定用のテスタには以下のような属性が求められます。
- ロッドを持たないこと
- 土壌(アース)を参照しないこと
- L、R、Cを測定できること
- 雷撃に対して有効であること
こうしたテスタを設計するためには、自然法則をよく研究しなくてはなりません。雷雲の挙動を研究するために、テスト用接地システム(GSUT)を用いました。
雷撃は雷雲と大地を接続するスイッチのようなものです。大気は巨大なインピータンス(1000MΩ以上)を持つ直流電源によって充電され、絶縁限界に達するとアーク放電によって大気とGSUTと短絡します。
●テスト用接地システム(Ground System Under Test)
大気からGSUTに放電される様子は、電磁シールドされた正確な測定用抵抗器によって、デジタルオシロ上に表示されます。ここで記録された電圧上昇時間とピーク電流によって回路のインダクタンスと抵抗値を求めることが出来ます。また、電流振動の周期から回路の静電容量を求めることが出来ます。こうした方法をダイナミックテスト(DGT)と呼んでいます。
こうしたGSUTを用いたダイナミックテストを繰り返し行い、そのデータの平均を求めることで平均的な回路の特性を求めることが出来ます。そして今度はGSUTから、LRCの値をそれぞれ変化させることが可能なシミュレータに切り替え、GSUTによって得られたデータとシミュレータの特性がオシロスコープ上で一致するようにシミュレータを調整します。
GSUTから出力される電流波形を計測する場合、パルスの持続時間は実際の雷撃の場合よりも小さくなります。そのため、回路に供給されるエネルギーも実際よりも小さくなります。この測定の目的はLRCそれぞれの値を求めることにあり、GSUTを非線形アークが発生する条件に置くことではありません。実際の接地システムのテストで用いられるエネルギーも雷撃に比べると非常に小さいものですが、これによって接地システムの性能を安全に検証することができます。
パルスの持続時間が短いことがDGTにとって不利になる場合もあります。時間のドメインを周波数のドメインに変換する場合、周波数が通常の雷撃の場合に比べて高く出てしまいます。しかし、この効果はLとCを強調するため、山頂の接地システムのようにLとCが支配的な回路の計測が容易になります。
岩盤が露出しているような山頂は、乾燥していると電導性が低く、やはり放射状の接地回路を設置する必要があることが分かります。DGTパルスは放射回路を励起しますが、パルスの周波数によってインピータンスの値は変化します。そのため、電流波形は周波数によって変化する様々なインピータンス成分の混じった合成波形になります。こうした波形データを多数取り、可変LRCを持つシミュレータをDGTに最も近い波形が得られるまで調整することでシミュレータ本来の機能を発揮することが出来ます。しかし、この方法でも雷撃に含まれる低周波成分を正確にシミュレートすることは出来ません。たとえDGTの出力パルスの持続時間を延ばして低周波成分を入れたとしても、実際の雷撃にあるような様々な電圧上昇/下降時間を持つ波形は到底シミュレートしきれるものではありません。
前述のUfer型接地システムは、岩盤が露出したようなサイトでサージのエネルギーを拡散させるのに特に適した方法です。雷撃時には、コンクリートは網の目のような鉄筋からインダクタンスの影響で電流が漏れだし、岩盤の表面を伝って拡散します。実際の抵抗値は低いので、反射されてくる電流は存在せず、電流が共鳴を起こす可能性もありません。DGTは、通常のテスターでは計測できないこうしたUfer型接地のLRCの値も求めることが出来るという利点を持っています。
近い将来、接地が困難とされてきたサイトに効果的な接地回路を構築し、また既存の接地システムをさらに改良する切り札として、このDGTが広く使われることになるでしょう。
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