「雷撃防護の基礎知識」
The "Grounding" for Lightning and EMP Protection
第1章:電流配分
●電流配分
電撃防護に関する文献は数多くありますが、そうした文献の多くは、RF設計という観点から物理法則に従って的確な接地を行う、という目的からすると難解なものが多いようです。
ここでは、高価な機器を日常の雷撃から守るという目的に絞って説明を進めていきます。ラジオ中継局、パイプライン、出張所、電話局、防衛施設、船舶、保安設備などいかなる用途であろうと、適切な防護設備を設置する際に必要な知識は同一なものです。
●電撃とは
電撃はパルス状の波形である、2µsでピークに達し、10〜45µsで50%まで減衰します。現在はIEEE規格として8-20μsの基準波形が用いられています。平均的なピーク電流は第一撃が18kAで、第2、3撃はそれ以下の電流です。通常は3回続く雷撃が一般的とされています。
一度イオン化が起こると、空気は3万度近い導電性のプラズマ状態になり、明るく輝きます。この明るさは太陽表面よりも明るいものです。電流が雷の落ちた物体を通過して流れ去る際に、I2×Rに相当するエネルギーが物体内部で消費されます。雷撃の50%は第一撃高々18kAですが、10%は65kAを超え、1%だと140kAを超えるものもあります。記録に残る最大のものでは400kAというものもあります。
●なぜ鉄塔はダメージを受けるか
鉄塔は他のサイトに比べて雷撃を受けやすくなっています。理由は明確で、周囲の地形に比べて鉄塔は高いところにあり、また鉄塔自身も接地線としての役割を果たすからです。鉄塔の構造材は比較的大きい抵抗とインダクタンスを持っています。雷の議論では構造材の抵抗値が問題にされることが多いのですが、多くを占めるのはむしろジョイント部の抵抗なのです。一般的な鉄塔のジョイント部は0.001Ω以下の抵抗値しかありませんが、この程度の抵抗値でも、18kAの大電流に対しては大きな抵抗となります。しかし、雷撃のときには、更に大きい電圧がかかることが、後述の理由で分かっています。
すべての導体には必ずインダクタンスが伴います。鉄塔のインダクタンスは、高さと幅の比、及び鉄塔の高さなどの幾何形状によって決まります。高さ50m、幅11mの鉄塔ではインダクタンスは40μHになります。インダクタンスの値は鉄塔を1/4波長のアンテナとして扱うことでよい精度で見積もることができます。
高さ50mの鉄塔の頂上から、直径13mmの同軸ケーブルが高さ5mの地点まで45mに渡って張られている場合を考えます。この場合インダクタンスは72μHになります。もし同軸ケーブルの外破が、鉄塔の頂上と高さ5mの2箇所で鉄塔本体にアースされていたとすると、鉄塔と同軸ケーブルを合わせたインダクタンスは28μHになります。
仮に同軸ケーブルが水平に7m張られて建物に達し、2mの♯6ケーブルを経て接地されているとします。すると、同軸線のシールド部分のみのインダクタンスは12.7μHになります。このほかの要因−ひとつは同軸ケーブルが曲げられていることの影響、もうひとつは接地板の影響を加えると、1μH多くなります。下の図は等価回路を表したものです。ケーブルや接地線を急に曲げることによる影響は、実際は0.15μHのオーダーであり、導線の形状にもよります。
鉄塔とケーブルによる以外のインダクタンスの影響がない理想化された接地システムを考えると、鉄塔の頂上に2μsでピークに達し、18kAのピーク電流を持つ雷撃があったとすると、なんとLdi/dtに相当する243kVもの電圧が鉄塔の両端にかかることになるのです。
●接地型アンテナが最良の方法
これまでの長い間、アンテナメーカーは接地型のアンテナを雷撃対策の対抗手段として提供してきました。こうしたアンテナは確かに、鉄塔や接地システムに雷が直撃した時のエネルギーの一部を逃がす役割をもっています。しかし、残念なことにこうしたアンテナはアンテナ自身は守りますが、通信機器そのものを防護する事はできません。
雷が直撃すると、接地の有無に関わらず、電流はアンテナ内をめぐる共振回路を形成します。しかし、接地アンテナは、直撃電流のみしか扱うことはできませんので、鉄塔内にはアンテナのすべての共振周波数の成分を含んだ電流が流れ続け、それ以外の周波数成分を持つ電流は同軸ケーブルから通信機器に流れ込みます。鉄塔内に残った共振成分は高性能の二重フィルターやクオータースタブでも取り除く事は困難です。さらに、典型的な高さ50mのDC接地型アンテナを考えた場合、落雷時には中止導体とシールド線の双方に243kVの電位差がかかります。接地型アンテナは導線にアークが飛ぶのを防止する効果はありますが、同軸線には6kAのピーク電流を持つ電流が流れてしまいます。同様に、並行する鉄塔には12kAの電流が流れます。(同軸線のサージ電流が中心導体とシールド線との間で増幅する現象は後ほど解説します)鉄塔と同軸線とに分配された電流は、低周波成分も含んでいます。(接地されていないアンテナでは中心導体とシールド線との間にアークが発生し、それによって発生した高周波成分が同軸線を通して通信機器に流入します)接地型アンテナの効果と、鉄塔や同軸線のインダクタンスのフィルターとしての働きで、電流は高周波成分が含まれていない状態になります。通信機器に影響を与えるのは、アンテナの共振で発生したこれよりも高い周波数成分です。
●誤った使い方
同軸線と鉄塔との接続点をみると、サージ電流のほとんどは鉄塔からアースされるように思われます。しかし接地板にも4.3kAの電流が流れ、両端には7.3kVもの電位差が生じます。これはあまりいい接地とはいえません。この場合は絶縁された別の同軸線か、或いは接地ワイヤーを追加する方法が適しています。(この例から、高い地点でタワーに接続するのは誤りだということがわかります。これには別の正しい方法があります。)
これまでは典型的な雷撃に対して電流の分配について述べてきました。ここから先は同軸線と通信機器に対する影響について述べることにします。
もし、同軸線の終端が接地板のようなもので接地されていないとすると、同軸線はたとえ接地型のアンテナが使われていたしても、中心導体とシールド線との間でアークが発生してしまいます。これは中心導体とシールド線とで、共振が発生する電流の周波数が異なるために生じます。重要なのはこうしたエネルギーが通信機器に流入するのを防ぐことです。同軸線が絶縁されて独立した状態にあることはまれで(アンテナなどに接続されているので)、発生した電圧によって、アレスターや遮断器を通して、或いは通信機器内のDCブロック用コンデンサ内部をアークが飛ぶことで電流が流れています。
●DCアレスターが装置のサージ電流を肩代わりする
エアギャップを用いた代表的な雷撃用アレスター、ガスチューブを用いた同軸アレスター、クオータースタブなどでは、直撃電流の一部が通信機器に流入することは避けられなません。DCスパークを用いたタイプのアレスターでは、スパーク電圧に達するまでの電圧の立ち上がり時間の間の電流が、すべて通信機器の方へ流入してしまう性質があります。
2GHz未満用のクオータースタブのインダクタンスでは、通信機器の側に数百Vの電圧がかかります。(40kA,8/20μsの入力で、900MHzにおいて357Vが機器側に流れました。)これは、サージの持つある特定の高周波成分が共振を起こして高電圧が誘起されたことで、アレスター固有のインダクタンス(L di/dt)が電圧上昇を抑えたために、スパーク電圧に達するまでの時間が長引いたことによるものです。ここでの議論はすべて、同軸線の中心導体にコンデンサが接続されていることが前提になっています。
リピーター、ディプレクサ―などのようにコンデンサ接続のない場合、低周波成分の電圧は直ちに電流となって流れます。この場合、アレスターはスパーク電圧に達しず、クオータースタブが機器への電流を肩代わりするために、DCアレスタはサージ電流を防ぐ役割を果たすことができません。
●ディプレクサ―とアイソレーターのサージ電流によるダメージ
全てではありませんが、多くのディプレクサ―は適切な接地がなされていればサージ電流の低周波成分はかなり防ぐことができます。それはディプレクサーの長さ(周波数帯)によって変わり、また確実な接地ラインが適切な規模で敷設されているかどうかでも違ってきます。(本来ならば雷撃のエネルギーを装置に流入するのを食い止めるには装置自体を絶縁させるのがよいのですが、それが出来ない場合の雷撃は、鶏小屋に狼を放つに等しいものです。鶏を失うことなく狼を追い出すのは至難の業です。)雷撃の際には、接地ラインを曲げるほどの強力な磁場がディプレクサ―内部で発生し、続いて起こる雷撃の時には空間に強い磁界が誘起されます。強力な磁場が誘起された状態での雷撃は、コネクター内部の空間を溶接してしまう可能性があり、その場合、同軸線を取り外すことが、不可能になります。アイソレーターが用いられていないと、アンテナの共振現象により高電圧がキャビディー内部に誘起され、内部でアークが飛ぶ原因になります。同軸線から流入する低周波サージがまず最初に通過する装置がアイソレーターであった場合、サージ電流による鉄心からの誘導磁界と、磁束密度の変動によって、挿入損失が徐々に増加するという現象がみられます。
●最良のプロテクターとは
理想的な雷撃アレスタとは、超低損失、NP値が0で、ブロッキングキャッブ電圧が高いものです。この内部キャップは低周波サージ電流から装置を守りますが、これには“インパルスサプレッサー”という、電圧をギャップ電流に達するのを遅らせる装置が役立っています。この方法はポリフェーザー社が特許を取得している独自の方法です。ポリフェーザー社は高速、低ギャップ電圧、大電流のガスチューブ方式を、湿度/温度に左右されやすいエアギャップ方式に代わる新技術として一足先に実用化に成功しています。
ポリフェーザー社はガスチューブの設計に際しては、雷撃後のチューブ内のガスにRFパワーが蓄積されないように注意を払っています。ポリフェーザー社の特許技術をライセンスしている他者のプロテクターでは、このエネルギーを完全に除去できてはいません。エネルギーがチューブ内のガスの励起という形態で蓄えられたままの状態にあると、信号のノイズの原因になり、最悪の場合は焼き付きを起こします。他社のアレスターは同軸線の静電圧対策として内部設置コイルを使用しています。(この装置は接地アンテナを用いた場合には不要のものです)接地アンテナを使用しない場合は、ポリフェーザー社のアレスタが唯一エネルギーを装置へ伝達するのを防ぐことができます。
このプロテクターでは、ギャップ電圧まで達すると、内部のガスが瞬間的にイオン化され、静電エネルギーやアースへ流れ去ります。この過程は瞬間的でアークも飛ばないため、ノイズは発生しません。他社の製品はコイルを用いていますが、このコイルはガスチューブと並列に取り付けられているために、アンテナ共振のような高周波成分に対してはフィルターとして機能しません。このタイプのものは単純なガスチューブを用いているためにチューブの消耗の問題を抱えています。この他にも、コイルの共振と挿入損失、および鉄心による損失があります。雷撃の際には、コイル回りの磁場が鉄心によって偏向し、コイルのインダクタンスによって減衰します。このようにして雷撃を繰り返す度にRF損失が発生します。(90%以上の雷撃は地面と上空の電位差が同一の極性で起こるため、繰り返し起こる雷撃のエネルギーは鉄心に蓄積されていきます。)ポリフェーザー社の製品は、鉄心が適当でない場所には全て、鉄心の代わりに空気を用いたインダクタンスの少ない、誘導電圧Ldi/dtによる電圧降下の低いコイルを用いています。
さらに、ポリフェーザー社ではアンテナ共振から装置を守るバンドパスフィルターを組み込んだ製品も取り扱っております。(このプロテクターを組み込んだシステムの、アンテナ共振に対する耐久性のテストが現在行われています)
●一点接地の方法
同軸線の保護システムを導入する際には、接地は確実に行われなくてはなりません。下図に例を示します。外部の同軸線接地板はそのインダクタンスで地面から7.3kVの電位があります。この事実は一点接地の重要性を示しています。もし通信機器に(電源コードのアース線のように)接地板以外の別のアース線が引かれていると、複数の経路が閉回路を形成して、雷撃のエネルギーは装置のラックを伝わって流れ、トラブルの原因になります。
(装置の底部のアース線は閉回路を形成し、ラックに電流が流れるため、装置が共鳴ないしは破壊されます)
(これが正しい接地の方法で、同軸線は高いところから装置に入り、同じ高さのところでアースされます。低いところから装置に入る場合には、アースの位置を低くします。)
もし装置を導入する空間がない場合には、装置の入力-出力(I/0)プロテクターを接地して、装置のラックはお互いにつなげて固定してしまいます。電話線、同軸線、電源プロテクターは、バルクヘッドパネルでまとめて接地するか、ないしは一点の接地板に接続して確実にアースをとります。装置のラックは一点で接地している低インダクタンスの接地板に接続されます。
鉄塔の基礎、地面、バルクヘッドパネル、接地杭なども含んだ建屋外の接地システムは、放射状にのびた接地線を裸の銅線でしっかりと固定しています。
●支索付き鉄塔の電流配分
次に自立鉄塔について述べることにします。適切な防護措置と接地が行われていない自立鉄塔は、雷撃の際には大きなダメージを受けます。ここでは支索のついた鉄塔の電流配分を考えます。この支索と、これを支える接地用アンカーが雷撃の際に重要な役割を果たします。
前項と同じように、高さ50m、幅1mの鉄塔を例によって考えます。直径1.2pの支索を碍子なしで用いた場合の模式図は右上のようになります。
この三角形の基礎をした鉄塔では、“A”の支索はおよそ60mの長さになり、それぞれが99μHのインダクタンスを持つとすると、3本では33μHになります。このインダクタンスは鉄塔全体のインダクタンスの値に少なからぬ影響を与えます。同じように、“B”や“C”による電流配分の値も計算することができます。ここで忘れてはならないのは、“B”や“C”はメインとなる導体(鉄塔自身こと)に、それぞれ異なる高さ(インダクタンス)のところで接触しているということです。鉄塔全体のインダクタンスを考える際には、この高さの差も考慮に入れた回路を考えなくてはなりません。
簡単のために、3本の支索の取付け高さを50m、33m、16mとします。すると、鉄塔全体の電気的構造は次のようになります。
回路図として書き換えると次のようになります。
鉄塔全体のインダクタンスの値を計算すると12μHとなります。
18kAの雷撃が発生すると、鉄塔での電圧降下は、鉄塔の頂上と地面との間で
となりますが、この値は支索なしの鉄塔に比べて半分以下になっています。
この条件で電流配分の計算は少し複雑になります。メッシュ法を用いて計算すると、次のようになります。
同軸線上の平均電流は2.79kAとなります。
接地板につながる同軸線上は、1.26kAの電流しかながれず、電圧も2.14kVに留まります。これは支索なしの鉄塔の4.3kA、7.3kAと比べて半分以下になっています。
もし支索付きの鉄塔の設置をお考えの際には、ここで挙げた例では、鉄塔の幅がわずか1mとしていたことをお忘れにならないようにお願いします。実際の鉄塔はこの幅で建設することは不可能です。しかし、ここでの計算のように、システムの改善には非常に有効であることはお分かり頂けることと思います。
ここでの例では、支索に碍子を用いず、接地アンカーは鉄塔とアースを通じて接続して、鉄塔全体で一つの回路を形成しているという仮定をしています。この仮定がなければ、地面の抵抗と支索のサージに対するインピータンスが回路全体の電流配分を決定づけることになります。
●あまり有効ではない同軸線の鉄塔への接続
次に、同軸ケーブルのシールド線を接地した場合について考えます。ここでは、建屋に入る直前にシールド線を接地するだけでなく、鉄塔の途中でもアタッチメントを用いて電気的に接続することにします。
この場合の回路は次のようになります。
回路の電流配分は次のようになります。
定常状態での同軸線上の電流は2.733kAになります。
鉄塔のユニットごとにシールド線を接続するような接地方法は、この規模の鉄塔(高さ50m程度以下)ではそれほど有効ではありません。しかし、後術のように,これよりも大規模の鉄塔では、シールド線の鉄塔への接地は頻繁に行われます。この場合でも、支索を通る電流が同軸線を流れる電流を肩代わりする効果があります。
支索が取付けられている全ての地点でシールド線を鉄塔に接続した場合は、高さが33mから50mの同軸線上を流れる電流は、逆に鉄塔への接続を行わない場合よりも大きくなります。この場合、鉄塔の地面近くのみで接地した場合に比べて39%も電流値は大きくなります。それでは、33m地点の接続をせず、50mと16mでは接続した場合ではどのようになるでしょうか?
この場合、定常状態での同軸電流は2.775kAになります。
この場合の同軸電流のレベルは全ての地点で接続した場合と、5m地点のみで接地した場合の中間の電流値になっています。
同軸線電流に着目した場合、最大値は5m地点でのみ接地を行った場合の2.79kAで、最小値は全ての地点で接続した2.733kAになります。全ての場合において、5m地点を場がれる電流に着目すると、ここでの値はわずか8%しか変化していません。この方法を導入して得られる防護効果は、必要とされるコストと労力の面から見ると極めて効率の悪いものと言わざるを得ません。
●その他の要因:相互誘導
このほかに触れておきたい例として,同軸線と鉄塔との相互誘導の問題があります。
相互誘導の名前の由来は、一つの導体から他の導体への磁力線のリンクです。多くは銅などの非鉄金属導体同士の場合を指します。しかし、今回の例では銅線がリンクするタワーは鉄でできています。鉄では磁力線はきわめて狭い領域に集中します。
また、鉄塔を通過する電流は、鉄塔のそれぞれの足に均等に配分されることも重要です。一本の足に沿って降りてきた同軸線は、たとえ鉄による磁力線集中があったとしても、磁力線との大きなカップリングを行うことはできません。相互カップリングの係数はおおよそ0.166程度とみられています。
次の公式を用いて、相互誘導の影響を計算してみることにします。
ここで、k=0.166、L1とL2にはそれぞれ鉄塔と同軸線のインダクタンスの値を代入します。
鉄塔が40μH、同軸線が72μHの自立鉄塔の場合、Mの値は8.9μHになります。この値はインダクタンスの増加としては決して無視できない値です。18kAの雷撃が2μsの立ち上がり時間で起きた場合、Ldi/dtの値は80.2kVとなり、割合にして33%の増加になってしまいます。
支索付きの鉄塔の場合、kの値は同じですが、鉄塔のインダクタンスと同軸線の電流の値が低いので、Ldi/dtの値はそれほど大きくはなりません。同軸ケーブルのシールド線を鉄塔に接続する方法は、この相互インダクタンスを減らす効果があります。この場合、相互インダクタンスと雷撃時の電圧上昇は7%の増加にとどまります。
●ドリップループの是非
自立鉄塔と支索付鉄塔の電流配分の例によって、通信機器に対する防護措置の重要性がお分かり頂けたことと思います。雷撃の際に同軸線を通って機器へ流入する電流をできるだけ少なくするのが防護の大きな目的の一つですが、この対策として「ドリップループ」という方法をご存知の方もいると思います。この方法は、信号線にコイルを挿入し回路のインダクタンスを増加させて、サージ電流をチョークさせて(詰まらせて)機器へ流入するのを防ぐ、というものです。これは一見有効な方法に見えますが、コイルの性能には上限があり、ある電圧以上になるとコイルが破壊されてしまいます。また、コイルの特性により、サージ電流を減らすどころか、逆に増やしてしまうことすらあります。これは鉄塔に発生した磁場がちょうど変圧器のようにエネルギーを媒介してしまうためです。
同軸線の接地技術と、アース線相互の接続によって一つの接地システムを構成する方法は、どちらのタイプの鉄塔に対しても極めて有効な方法であり、サージ電流を安全にアースへ流します。また、同軸線の中心導体とシールド線との電位差の発生の防止にはサージサプレッサーが有効な手段です。ポリフェーザー社のプロテクターはこの電位差を打消し、中心導体からの電流の漏れを防止します。しかしながら、シールド線から中心導体に漏れ出した電流を完全に除去することはできません。ポリフェーザー社の同軸プロテクターは、機器とプロテクターとの瞬間電位差が5kVを超えない範囲であればシールド電流をストップすることができます。この5kVという値は、ポリフェーザー社のバルクヘッドパネルのように一点接地を行っているシステムでは超えることはありません。
●本当のシステム改修とは
今までの例からも明らかなように、同軸ケーブルのシールド線を接地することで多くの問題点を解決することができます。例の中で、シールド線を鉄塔に接続する地点を5m地点にしていますが、決してこの値でなければならないということではありません。この5mという値は一般的な鉄塔でよくみられる値であるという理由で採用しているものです。同軸線をもっと地面近くまで降ろし、鉄塔への接続点を鉄塔の足のすぐ上にすれば、雷撃の瞬間のシールド線の電圧勾配はほとんでゼロになります。つまり理論的には、同軸線を流れる電流はほとんどありません。ここで「理論的には」と断らなくてはならないのは、機器の接地点と鉄塔の接地点との間には地面を通じて接続されていて、地面に蓄えられる電荷がわずかなために地面を経由したサージが発生してしまうためです。残念なことに、同軸線を地面近くに降ろしても、サプレッサーが不要になることはありません。なぜなら、アンテナには特定の周波数の電圧が共鳴より残っていて、鉄塔の地面近くで接続しても同軸線内の電位差は無くならないからです。また、銅線を既存の接地装置から地面へ引くことですでに設置されている鉄塔を改良する方法もまず成功しません。これは鉄塔や同軸縁のインダクタンスを完全にゼロにすることができないのと同様の困難が伴います。
建屋の外部の装置のことを余り重要視すぎると、屋内の設備がおろそかになりがちになります。このことはポリフェーザー社の装置を導入しても同様のことが言えますので、屋内設備も常に意識したシステム作りをお考えください。
この後の章では、お客様の条件にあったシステムのセットアップと、確実な接地の方法について段階を追ってご紹介します。
●防護装置の重要性
表皮効果は、導体を流れるRF信号の周波数が高いほど、表面近くを流れるという物理現象のことです。この効果は、RF信号が中心導体を流れている同軸線が、シールド線の外部の干渉を受ける際に重要な影響を及ぼします。外部からの低周波成分は次第に中心導体近くまで浸透し、大切な信号成分に外部からの干渉によるエネルギーが混入する結果となります。接地閉回路における60Hzの周波数成分を含む信号は、交流電源に由来するアース分の影響をシールド線から受けている可能性があります。
雷の主な周波数レンジは約1MHzです。このレンジの成分は「トランスファー・インビーダンス」と呼ばれる影響を同軸線に及ぼします。シールド線の厚みが大きければそれだけ低周波成分による影響を少なくすることができます。(ただし曲げ部のRを小さくしようとするとその分作業性は悪くなります)
ここにあげる試験は、長さ15mの1/2インチ同軸線を用い、その一端は中心導体とシールド線を短絡し、アンテナ線と同様の条件で実施しました。0.01Ωの抵抗を介して、1.050Aのパルス電流を片端から印加し、電流観測用の抵抗を、それぞれデジタルオシロの異なるチャンネルに接続し、その波形を観測しました。もっとも顕著な結果として現れたのは、シールド線電流がもっとも早く到達するということです。中心導体はインダクタンスが大きいために到達速度が遅くなっています。到達エネルギーは両者ともに同じですが、パルスの到達時間に差が生じるために同軸線内部に電位差が生じます。実際の装置ではこの電位差を解消して機器にこの電位差が到達するのを防ぐ必要があります。
ポリフェーザー社の独自のパテントによる製品のラインナップにより、こうした問題は全て解決することができます。
次ページ→ 第2章:"Ufer"型接地
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