「雷撃防護の基礎知識」
The "Grounding" for Lightning and EMP Protection
第14章:実際の接地作業
本章では前章までに述べきた接地方法に順を迫って説明を加え、機器と人命を雷撃から守り、トラブルを最小限に抑える効果的な接地システムとその装置について、典型的なサイトを通じて説明していくことにします。説明はバルクヘッド/1点接地システムを用いた接地方法を主体に行いますが、マルチポイント接地の工事もほぼ同じ要領で行います。
●作業の概略
バルクヘッド・1点接地システムを用いた接地方法の作業の概略は以下の通りです。
- 1:鉄塔接地キットを同軸線と避雷ラインの双方に設置します。
- 2:建屋にバルクヘッドパネルを設置し、電気的な接地を行い、
イクイップメントハットに入射する同軸線にプロテクターを取り付けます。
- 3:接地回路を構築します。(接地ロッド、放射状回路など)
- 4:建屋外部の金属部を相互に結び、接地回路に接続します。
(鉄塔、金網、鉄筋、支持張線など)
- 5:電力ラインのアースを接地回路に接続します。
- 6:バルクヘッドパネルを接地回路に接続します。
- 7:建屋内部の機器を、支持している架台に電気的に接続して、架台がそのまま
機器のアースとなるようにします。それぞれのジョイント部はDVMを用いて計測し、 架台と機器との間の抵抗が1mΩ以下になるようにします。
- 8:電力ラインプロテクターと電話回線プロテクターを架台の接地バスまたは
バルクヘッドパネルに接続します。
- 9:架台の接地バスをバルクヘッドパネルに接続します。
- 10:電力ラインプロテクターと電話回線プロテクターをそれぞれ電力ライン、電話線に接続し、
建屋周囲の接地回路にアースします。
ここに挙げる機器は全てバルクヘッドパネルに接続して下さい。
- ・全ての機器の架台・キャビネット
- ・全ての補機(充電器、スイッチボード、コンジット、電線、ケーブルトレー、電力ラインプロテクター等のプロテクター類)
この接地システムは接地回路が最小で済み、導線同士の相互作用が少ないという利点を持っています。また、特別に必要な場合をのぞいては、直流分電器を、バルクヘッドパネル及びその他の接地回路に接続しないで下さい。接地回路の中で建屋内部に用いられている導線は必ず絶縁し、他の金属製の部品で支持しないようにして下さい。(ビルの表面材導通のために金属を用いている場合がありますのでご注意ください。)建屋周囲の接地回路を効果的なものにするためには、ロッドの埋設深さは土壌が凍結する限界よりも深く、常に土壌の水分が確保できる位置にする必要があります。
屋外に用いる導線の接合部に、はんだ付けのみの接合を用いることは出来ません。屋内、屋外を問わず、クリンプ、ロウづけ、あるいは溶接をすることが好ましいと言えます。また、より接合を確実なものにするために、金属の表面はきれいに保ち、表面仕上げをした上にコンパウンドを用いることが必要です。また、完成した接合部は、ジョイントコンパウンドを用いて水分の侵入を防ぎます。
●バルクヘッドパネル・及び信号ライン
信号ラインをアンテナに接地するためには、全ての同軸線や導波管に接地キットを組み込む必要があります。接地する対象が鉄塔などの導体の場合には、キットのテール部をこの導体自身に接地するのみで結構です。また不導体の塗装が施されている場合、或いは表面が腐食している場合には、接地を行う前に表面を仕上げる必要があります。鉄塔に穴をあけたり、構造材を結合しているボルトを抜くようなことはしないで下さい。アンテナ用のクランプはステンレス製の18-8ホースクランプで、これで十分機能を果たすことが出来ます。異種の金属同士を接合させて用いることは、腐食が起こってしまう関係で出来ません。(3章参照)。この場合には緩衛金属とジョイントコンパウンドを用いることで腐食を抑えることが出来ます。
鉄塔頂上用の接地キットはタワー基部に用いるものなどとは若干異なります。50mよりも高い鉄塔の場合は、50m地点より上部では25mおきに接地キットを取り付けなくてはなりません。
アンテナを支える構造に電導性のない場合、幅4cm以上の鋼製のストラップを用いて接地回路を引き下ろしてこなくてはなりません。アンテナ頂部の接地キットは、このストラップに接続します。また、このストラップは、他の導体(同軸線、電灯線、導波管など)から、最低でも50cm、通常は60cm以上離す必要があります。もし他の接地ライン、コンジット、また既に接地を行った鋼材などをストラップが横切る場合には、これらとストラップを電気的に接続してフラッシュオーバーを防ぐ必要があります。
接地の対象となる構造が、不導体で複数の脚をもつものである場合(3・4本脚の山火事監視塔のようなもの)、アンテナを接地する全てのフロアに環状の導体を設置し、それぞれの脚に取り付けられている接地ラインを、相互にそのフロアで接続する必要があります。ここで用いる導体も同様に幅4cm以上の銅製のストラップです。また可能であれば、ストラップの取り回しで半径20cm以下の屈曲部を作らないようにして下さい。
同軸線や導波管が鉄塔などの導体から分岐する部分では、同軸線/導波管接地キットを垂直に伸びる構造材に取り付ける必要があります。同軸線や導波管を分岐する場所の高さは、できるだけ鉄塔基部に近い、低い場所で行う事をお奨めします。(この要求は複数のストラップを用いて接地されたバルクヘッドパネルを使用していれば、厳密に守らねばならないというものではありません。ビルトインの接地キットと併用されたバルクヘッドパネルは建屋まで到達したサージ電流のほとんどをアースに逃がします)また接地キットのテール部を鉄塔の脚に対して0°,45°,90°に加工します。電導性のない構造の場合には、導通用に金属のバスバーを使用しなくてはなりません。このバスバーは1本以上の垂直に下ろした導体で必ず接地をし、建て屋に分岐していく部分の高さはできるだけ地面に近くなるようにしなくてはなりません。
イクイップメントハットの壁面には、必ず接地を行ったバルクヘッドパネルを用いて、全ての信号ラインが壁に入射するこの地点で接地を行う必要があります。このバルクヘッドパネルは大きな表面積を持つ複数のストラップを用いて接地システムに接続するか、或いはバルクヘッドパネル自身を低い場所に設置して短い、低インダクタンスのストラップを1本用いて接地システムに接続して接地を行います。建屋内部の配線にケーブルトレーを用いている場合には、トレーはバルクヘッドパネルの高さに設置します。
バルクヘッドパネルの大きさは、接続する同軸線のサイズと数量によって変わります。通常、パネルは銅製又は真鍮製で、アルミニウムを用いることも可能ですが、銅やステンレス鋼を用いることはできません。このパネルの目的は、雷撃時の電流に対してアースまでの低インダクタンスの通り道を確保することです。このパネルで同軸線や導波管を通ってきた電流のほとんどはアースへ分岐させられ、イクイップメントハットから建屋内部に電流が侵入するのを防ぎます。そのためには、パネルからのアースまでのインダクタンスは、同軸線や導波管の接地キットから鉄塔を経由してアースに到達する回路のインダクタンスよりも低く抑えなくてはなりません。
同軸線プロテクターはバルクヘッドパネルの地点に取り付けなくてはなりません。信号ラインが鉄塔に設置を行っている地点や、建屋内の機器よりも、バルクヘッドパネルはアースまでのインダクタンスが低く抑えられているので、導波管や同軸線はこの地点でも設置機器を取り付けなくてはなりません。(ポリフェーザー社のバルクヘッドパネルには、ケーブルのエントランス部のすぐ内側に取り付ける、ビルトイン方式の接地キットが付属しています)このほかの接地キットを用いる場合には、テール部に直径3mmのステンレス線を45°に保ったまま引き下ろして、接地を行ったパネルに接続します。また、テールをパネルに接続する部分は突起部がないようにし、パネル側も表面のきれいな部分を用いるようにします。アルミニウム製のバルクヘッドパネルの場合にはジョイントコンパウンドが必要ですが、銅製のパネルの場合でも使用が望ましいと言えます。(ポリフェーザー社のバルクヘッドパネルセットにはジョイントコンパウンドが付属しています)
バルクヘッドパネルは建屋内部にある機器の接地の中心的役割を果たします。バルクヘッドパネルの接地のためには、必要に応じて銅のストラップを切断し、ジョイントコンパウンドを用いて挟み込むように接続して接合部の腐食を防ぎます。また建屋周囲の接続回路はその両端をバルクヘッドパネルに入射するようにして接続します。直流抵抗をFluke8012A-01を用いて測定し、パネルと接地回路を合計した抵抗値が、0.001Ω以下に保たれていることを確認します。またこの測定は毎年行う必要があります。
バルクヘッドパネル部に用いるプロテクターは、エアギャップ方式のものを用いることはできません。エアギャップ方式は空気の汚れや腐食、温度、湿度などに敏感で、製品の製造誤差も大きなものになっていて、パネル部分の使用に適していません。ここでの使用はプロテクターがアースに短絡するまでの動作時間がカギになっています。ガスチューブタイプのアレスターはエアギャップ方式よりは有用ですが、両者とも直流電流が流れ続けている点では共通で、空電ドレインインダクターをもつシャント・フェッドキャビティー、アイソレータ、レシーバなどに用いることが出来ません。その理由は、こうした電圧に敏感なクロウバー装置は常に幾らかの直流電流がアースに流れているためで、Ldi/dtによる電圧勾配が生じてもプロテクターを短絡させるのには不十分な電位差が生じませんが、機器には十分にダメージとなりうる電圧がかかってしまいます。
バルクヘッドパネル部に用いるプロテクターは、同軸線の中心導体を直流電流が流れていないものを使用します。また中心導体は雷撃時に損失の多い(高インダクタンスの)鉄を用いていいないものを使用します。
中心導体・シールド線共に直流電流が流れていないものがあれば、更に高いパフォーマンスを得ることが出来ます。このタイプのプロテクターを用いれば全てのサージ電流をバルクヘッドパネルからのアースに逃がし、イクイップメントハットに入射するのを防ぐことが出来ます。
●建屋内部の工事
建屋内部の接地バスは、全てイクイップメントハットに接続します。建屋内部にある全ての架台、機器などは必ずアースをイクイップメントハットに取り、その他の接地を行ってはいけません。配線は適切なジョイントが可能であればケーブルトレーを用いて行うことが出来ます。
●機器の接地バス工事
ラックレールを用いない場合、機器の接地バスは#6のAWG銅線を、ラック上にバルクヘッドパネルに向かって左側に敷設し、ラックにある機器のアースが取り易いようにします。こうした接地バスには銅線を用い、高さ75cm以上にあるラックには必ずこうした接地バスを設けなくてはなりません。ケーブルトレーからラックに沿って垂直に#6の銅線を下ろしたら、今度はラックにある機器をこの銅線に接続します。機器の接続に用いるのは#14のよった絶縁ワイヤー(シャーシ接地ワイヤー)です。
ラックレールを用いる場合、接地回路を兼ねる部分の接続にはネジを使用しないで下さい。またシャーシ本体にも接続回路の一部とするための構造材を指定し、そこに接地を行いますが、シャーシが適切な接地回路を構築できる十分な大きさがない場合、セルフタッピングタイプのネジを用いて回路の端子を確保し、トゥースロックワッシャを用いて機械的、電気的に確実な接合を行います。(この方式はシャーシと端子、端子とネジ頭双方の接続を行います)また、表面仕上げコンパウンドを用いて、ジョイントが酸化するのを防ぎます。そしてもう一端のシャーシの接地ワイヤーを機器の接地バスに接続します。
ラックの接地ワイヤーをそれぞれのラックの接地端子に以下の要領で接続します。
- ・ワイヤーを適当な長さに切ります。
- ・ワイヤーの表面を出し、クランプラグを取り付けます。
- ・工具を用いてラグを端子に取り付けます。
また、機器の接地バスもこの接地端子に同様に接続します。
●接地回路
土壌の電導率は電子の通り道のキャリアがどれだけ利用できるかということで変化するので、一つの方法で全くの土壌をカバーする接地回路を構築できるわけではありません。ここで述べるのは一般的な土壌に対する接地回路の構築方法です。あるサイトで接地回路を構築したら,必ずテストを行って構築した回路が適切なものであるが確認して下さい。
屋外の接地回路は最も重要な働きを持っています。理想的には、回路の抵抗は出来るだけ低いことが望ましいと言えます。しかし抵抗だけが回路の性能を決める要素ではありません。回路のインダクタンスは、キャパシタンスと同様に全ての回路に固有のものです。電導率の高い土壌では、土壌がほぼ「短絡して」いる状態のため、回路のインダクタンスやキャパシタはあまり重要ではありません。この場合重要になるのはバルクヘッドパネルと接地回路を結ぶワイヤーのような空中に張られた回路のみです。しかし、電導率が低い土壌の場合は、インダクタンスやキャパシタンスの値は極めて重要になってきます。
抵抗計を用いたアーステスターでは土壌の性質の半分しか知ることが出来ません。ロッドを用いないダイナミックテスターによってのみ、接地システムのサージインピータンス(Z)の正しい地を測定することが出来ます。
●接地システムの構築
フラッシュオーバーを防ぐため、近接するフェンス、建物、タンク等は全て接地回路に接続する必要があります。導体から半径1.2m以内にある物体は全て接続ワイヤーを用いて接続しなくてはなりません。この接続ワイヤーは可能であれば埋設して、サージ源である鉄塔に対して45°の角度となるようにして放射路に接続します。これらの接続は放射回路がこの物体に直接接続されていて接続ワイヤーを用いる必要がない場合の他は必ず行って下さい。
放射回路(接続ワイヤー含む)に用いる導体のサイズは土壌の電導率によって変化します。岩石質の土壌では幅4cmの銅のストラップをお奨めします。銅のストラップは土や岩で埋設します。通常の土壌では放射回路には#2よりも太い銅線を使用して下さい。乾燥、砂質、表層土などの土壌の場合には、接地ロッド間のインダクタンスを低減するために銅のストラップの使用をお奨めします。
ロッドを相互に接続する放射状回路のワイヤーは出来るだけ深いところに埋設して下さい。深さ15〜25pに埋設する方法が最も有効です。土壌が乾燥、表層砂質などで、深く埋設すれば水分を含んだ層がある場合や、ロッドの埋設深さが深い場合、土壌の凍結が頻繁な場合など特別の場合以外には、50pよりも深いところに埋設する方法はコスト的にみて適当ではありません。
岩石質の土壌でも、わずかでも土があれば放射回路を覆って下さい。また、鉄塔により近い部分のワイヤーを覆う方が重要なので、こちらを優先するようにして下さい。しかし地形その他の都合で放射路の外側のみしか土で覆えないような場合には、外側だけでも結構ですので出来るだけ土をかけるようにして下さい。
通常の土壌の場合には放射路に沿って接地ロッドを埋設します。ロッドの埋設間隔は多くの場合、埋設する深さによって変化します。埋設深さが浅いほど、ロッドの間隔は小さくなります。常にロッドの埋設深さが前のロッドによって決定してしまうとは限りませんが、ロッドの間隔は通常、とりうる最大間隔である5mに決定されます。建屋周囲の接地回路の場合は、まず建屋の四隅にロッドを埋設し、その後それらのロッドの間を埋めるようにして壁沿いのロッドを埋設していきます。
ロッドが埋設されている深さよりも短い間隔で設置されている接地ロッドは、システムのパフォーマンスを向上させる効果があまりありません。ロッドを近傍して埋設するよりは、十分に間隔をとり、埋設深さを最も有効に使えるようにするべきです。ロッドを埋設するときには、ロッドの穴をあけてそこにロッドを落とし込むのではなく、直にロッドを地中に落ち込む方法で埋設し、必ず埋め戻して下さい。ロッド周囲の土の密度は、直に打ち込んだ方が、明らかに穴を掘ってロッドを生めた方法よりも大きくなっています。唯一の例外は、ロッドやRE Bar の穴を掘った埋め戻しにコンクリートを用いたときです。
放射状回路と接地ロッドとの接続は、必ず溶接するか、ジョイントコンパウンドを併用したクランプによって行ってください。そしてロッド上端の埋設深さは放射回路の埋設深さにあわせて下さい。
鉄塔基礎のコンクリートにUfer型接地を用いている場合には、接地システムの放射状回路との接続を容易にするために、鉄塔の建設時に内部の鉄筋に接続したピグテールを取り付けておいて下さい。このピグテールはRE Barのかご状鉄筋に溶接してあり、基礎のコンクリートの放射回路と同じ深さの部分からこの溶接したピグテールが取り出されています。かご状鉄筋はアンカーボルトに電気的に接続されているか、または別のピグテールを通じて鉄塔基部に取り付けられています。
Ufer型接地を用いていない場合でも、放射状回路は同様に必要です。最小規模のサイトでは#1/0のワイヤーを用いて120°間隔で3本の放射状回路を構築し、鉄塔基部に溶接します。
大きな基礎をもつ自立鉄塔の場合、それぞれの脚に放射回路を構築します。この放射回路は土中に埋設せず(空中に張り)、相互に間隔をとって鉄塔基部に接続します。このように空中に張られた放射回路の場合、相互インダクタンス(カップリング)が小さいほどサージに対するインピータンスが小さくなるので、まず放射状回路同士を相互に接続して、その後に回路を鉄塔のそれぞれの脚に接続します。
建屋の周囲には、切れ目のない環状の接地回路をワイヤーとロッドを用いて構築します。このリングと鉄塔との接続は1点のみで行い、ワイヤーの埋設深さは放射回路と接続を行う地点の深さで統一します。ワイヤーの敷設やロッドの埋設などの要領は、前述した放射状回路の構築の時と同様です。また、電力ラインのアースはスープ回路に接続しなければなりません。
(注意:電力ラインのアースがループ回路に接続されている場合は、通常時でも電流がリングを流れている場合があります。人員の安全のために工事の手順は必ず守り、確認しながら工事を行って下さい。)
発電機のある建屋の場合、建屋のすぐ外側に接地ロッドを埋設し、このロッドを建屋外周の接地回路に接続します。(既に電力会社などの手で接地工事がされている場合や土壌の状態が悪い場合は省略します)絶縁された#1/0銅線を発電機建屋内部のメインパワーパネルから外部の設置ロッドまで敷設します。その際はまずケーブルを必要な長さにカットした後、一瞬はメインパワーパネルの電力ラインの「Neutral」ラインに接続し、もう一端は外部の接地ロッドに接続します。
(注意:この接続を行う場合には、「Neutral」ラインに接続したケーブルの電位がアース電圧と比べて危険な高さにある場合がありますので十分な注意が必要です。)
「Neutral」ラインに接地されている既存の接地回路、特に電力会社等によって工事された接地回路は改造や撤去などを行わないようにして下さい。こうした改造や撤去は電力線の保安に関する法律に抵触する恐れがあります。本章の目的は「Neutral」ラインを建屋外部の接地回路に接続することであり、「Neutral」ラインに存在するノイズを減少させ、アースさせることであり、既存の回路を撤去することはこの趣旨に合致しません。
●その他の装置の接地
放射状回路から120p以内にある全ての導体は、必ず放射回路と接続を行います。鉄塔の支持張線はこれ自身も雷撃防護の重要な役割を果たしており、雷撃電流の大部分がアースに逃げるときの通り道になっています。
支持張線とアンカーを用いて鉄塔の支持を行う際には、これからも接地回路に接続しなければなりません。支持アンカーを土中に接続する場合、亜鉛メッキを施したクランプとワイヤーを使用し、異種の金属同士の接触がないようにします。メッキワイヤーと銅のワイヤーとの接続を行うときは、通常の気象状況で積雪や浸水のかからない高さで行います。また銅線を接地ロッドに接続する場合には溶接を行います。また、電導性の小さい土壌でロッドを埋設する場合には、放射状回路本線の他に2本の短い(6m程度)接地ワイヤーをそれぞれのロッドから延ばし、ロッドとワイヤーの接続いは接地ロッド用端子を使用します。
土が全く存在しないようなサイトでは、それぞれのアンカーの取付部に放射回路を作るか、またはコンクリートの基礎にアンカーを埋め込んで接地を行います。アンカーを埋め込むコンクリートの厚みは、埋め込んだ導体からどの方向にも7cm以上確保するようにして下さい。またこの長さは接地用にコンクリートの中に埋め込む導体のサイズによって変化します。通常の雷撃時には約4.0kAの電流がそれぞれのアンカーに流入します。これは12mmサイズのRE Barによって少なくとも半径60cmの範囲に安全に電流を拡散させられることが求められていることを意味します(9.0kAのサージに相当する処理能力です)。ダイナミックテスタ(DGT)を用いた計測で接地アンカーのトータルインピータンス(Z)の値は10Ω以下になることが求められています。
アンテナに電源を供給するラインは、バルクヘッドパネルから建屋に入射させてはなりません。このラインは以下の要領で接地を行います。
- 1:建屋外壁に電源供給ライン用の接地バーを取付けます。この場合、ラインが入射
している地点よりも約10cm下の地点に取り付けます。
- 2:それぞれの供給ラインを取り付けた接地バーに接続します。この接続は適切な
接地キットを使用して行います。
- 3:幅8〜15cmの銅のストラップを用いて接地バーと外部の接地回路を接続します。
この接続は溶接か、または銀ロウを用いて行います。
- 4:建屋内壁に1点接地用のパネルを取付、幅4〜8pのストラップを用いて
建屋外部の接地システムと接続します。
●その他のプロテクト装置
電力ラインのプロテクションを行い、バッテリー充電器や空調装置、鉄塔の照明、水道ポンプなどの機器を電力ラインのサージから保護することは、サイトとしての機能を維持するために重要です。このプロテクションにはブレーカマウントタイプの装置を用いて、電力ライン自体を遮断する方法をお奨めします。このタイプはブレーカのみで部分的に電力回路を遮断するため、プロテクトが働いた場合でもサイト全体の電源には影響しないため、放送や通信がストップすることはありません。ブレーカの遮断が起こると、自動的にリレーによって検知し、さいとの管理者のもとに知らせることが出来ます。
ブレーカによって行う電力ラインのプロテクションは、すべてのAC 100V機器にとって有効です。また電話線も同様で、建屋のエントランスやバルクヘッドパネル、または機器の地点でプロテクトを行う必要があります。電話会社によっては、建屋のエントランスに設置するガスチューブタイプのプロテクターを取り扱っている場合もあります。更に、MOVを用いたブロックタイプのプロテクターも広く使用されています。MOVを用いたプロテクターには、シングル、ダブル、6個一組のタイプがあり、24AWG銅線を用いることで220Vを超える過電流を短絡させることが出来ます。
DC信号ラインには電話線と同様のプロテクト措置を施します。トーンを用いたリモート回路やオーディオ回路にも、電話線や信号ラインと同様のプロテクトが必要ですが、こうした回路がダメージを受ける可能性は低いでしょう。建屋に回路が入射する部分と、回路が機器と接続されている部分には、適切な動作電圧をもつプロテクターがかならず必要であるといっても過言ではありません。
バッテリーからのDC電源ラインはアンテナとして作用して、雷撃時に電磁波として放出されるエネルギーを拾ってしまう場合があります。1点接地パネルにアースをとった適切なプロテクターを、それぞれの機器のDC電源ラインとシャーシの間に取り付ける必要があります。ASASダイオードをDCラインに挿入することでサージ電流がラインを逆流するのを防ぐことが出来ます。バッテリー充電器の電力側も、同様の機器でプロテクトを行うことが可能です。
太陽電池パネルを用いたサイトでは、バッテリー回路のレギュラーを保護するためにプロテクターを用います。太陽電池パネルまでの長い回路で大きな誘導電圧と電流が生じるため、バッテリーのプロテクトで述べたプロテクターとダイオードが、同様に必要になってきます。
次ページ→ 第15章:ステップリーダ理論の応用
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