「雷撃防護の基礎知識」
The "Grounding" for Lightning and EMP Protection
第9章:高所のサイト
鉄塔頂上の機器の防護を正確に理解するために、機器を2つのカテゴリーに分けて述べることにします。一つはプリアンプ、もう一つはリピーターと呼ばれるものです。
プリアンプは通常、システム全体のノイズ条件を向上させるために用いられます。コストの面では、大型で損失の少ない同軸線を用いたシステムよりも、プリアンプと細い同軸線を組み合わせたシステムの方が低コストになるようにプリアンプを製作しなくてはなりません。また、鉄塔が設置されている地域の氷雪や風といった条件も考慮する必要があります。
鉄塔頂上にあるプリアンプに接続するワイヤー本数を最小にするために、直流電源はセンターピンを「+」、シールド線を「-」に用いてアンプに接続されます。雷撃時には、プリアンプのアンテナ入力側がダメージを受けるように思われますが実際には異なり、適切な接地がされたDCアンテナと、短いジャンパ線を用いて接続されたプリアンプがアンテナと同じ高さにあれば、アンテナ入力側のダメージの可能性は小さくなります。さらに多くのプリアンプシステムは、DC接地のなされたフロントエンドデジタルフィルターを組み合わせていて、これはプロテクターとしての役割も果たします。
●プロテクション
防護が問題になるのはプリアンプの出力側です。鉄塔は高いインダクタンスを持っているので、雷撃時には大きな電圧降下を生じます。それによって同軸線のシールド線には高いサージ電圧が誘起されます。このシールド線は電磁場を介して中心導体にエネルギーを伝えてしまい、中心導体にもサージが伝わってしまいます。
電撃によるサージは、同軸線のシールド線と中心導体を、それぞれ異なった速さと大きさで伝わります。そのため、この両者の電位差がゼロになる瞬間はありません。
●RF及びDCセパレート
シールド線上に誘起されたサージ電流は、DCラインとRFラインを結ぶDCインジェクターのあるイクイップメントハットを目指します。そしてインジェクターを通ってDC電源装置に達し、それらを破壊してしまいます。
もし電源装置にSCR過電圧クロウバーやプロテクターが取り付けられているときには、SCRクロウバーのdv/dtの影響はインジェクターから同軸線にまで及び、この影響は広いバンド域のステップ波形として同軸線上を伝わります。このような低周波領域では、同軸線はプリアンプのピックオフに接続されている地点において50Ωのインピータンスを確保できません。(プリアンプのインピータンスは動作バンド域において50Ωです。) そのため、クロウバーからのステップ波形は、その波形、同軸線長さ、プリアンプ (及びピックオフ) 自体のインピータンスによって、プリアンプに流入する時には数百ボルトに達してしまいます。この電圧波形はプリアンプの内部の電源機器に達し、障害の原因になります。
75〜90Vの動作電圧を持つDCプロテクターが取り付けられていても、この場合は効果がありません。電源機器電圧は15〜36Vの間であり、このような高い動作電圧では、この電圧に達する以前に機器が障害を受けてしまいます。(中には90Vの動作電圧にも関わらず、140Vになっても短絡しないガスチューブも存在します)たとえそれらのプロテクターがうまく短絡したとしても、電源機器内部にアークが飛び、機器にダメージを与えてしまいます。
●唯一の解決法
これらの問題を解決するためには、DCインジェクターとピックオフに十分な防護装置を施すか、RFとDCの2本のラインにそれぞれ独立に防護装置を施し、この二つを一つのボックスにまとめる以外に方法がありません。後者の方法がより一般的です。
鉄塔頂部の機器を製造する多くのメーカーでは、ポリフェーザー社のインジェクター(品番IS-DC50LN)及びピックオフ(品番IS-GC50LN)を組み合わせて利用しています。これらを利用することで、機器に対する防護効果が得られると同時に、周囲の接地システムから拡散を始める以前に、サージ電流がイクイップメントハットに達するという利点があります。ポリフェーザー社の品番IS-DC50LNZは、上記にある独立に防護した2本のラインを一つのボックスにまとめる方式のもので、バルクヘッドパネルと組み合わせて用いることでほとんど全てのサージが建屋内に流入するのを防ぐことができます。
多重送信機を用いてプリアンプの出力を統合することで、同軸線のコストと鉄塔の負荷を緩和することができます。800MHz帯では、セパレートタイプのDCインジェクターとピックオフを組み合わせた、送受信機のマルチチャンネル電撃防護装置が利用可能です。(ポリフェーザー社品番IS-CBT50LN)
●リピーター及びマイクロ波機器
鉄塔頂上のリピーター機器は、鉄塔や電話線、制御ラインの防護が重視されがちですが、実はI/0の防護が最も重要です。プリアンプの項で述べたような条件の場合には、同軸線のプロテクターが重要になります。
電力ラインのプロテクターは1本ごとにそれぞれ取り付け、鉄塔頂上において他の機器と共に一点接地が行われていなくてはなりません。電力ラインの防護は、鉄塔頂上のリピーターに120V或いは240VのAC電源が供給される箇所でも必要になります。
18GHz帯以上の周波数帯のマイクロ派機器は、1本ないし2本の同軸線によって電源を供給されているガンダウンコンバーターを、パラボラアンテナの後部に持っているのが普通です。この同軸線は周波数自動制御装置のエラー通知信号を含む、アップリンク、ダウンリンク双方の周波数帯の信号が流れています。これらのマイクロ派機器にもプロテクターは有効であり(品番IS-MD50LNZ)、また鉄塔頂上のプリアンプは鉄塔頂部と鉄塔基部の2箇所にプロテクトを施すことで、より完全なシステムの防護を行なうことができます。IS-MD50LNZは前述のIS-DC50LNZと同等の機器で、プロテクターを設置することによって、マイクロ派機器の平時のあらゆる電圧や信号に影響を与えることはありません。
鉄塔や高層ビル、給水塔などいかなるサイトであろうと、「一点接地」は接地の最も基本的な形態です。全てのI/0プロテクターは機器と接地板の間を結ぶものでなくてはなりません。機器が実際のアースの電位に比べて数十万Vも高い電位になったとしても、このこと自体は大した問題ではありません。こうしたサイトで重要になるのは接地板におけるアース電位であり、雷撃の際にはアースも含めたサイト全体の電位が上下するので問題は生じません。プロテクターの役割は、I/0の電位が、アースとして取ってある装置のシャーシの電位よりも過大になって、機器にダメージを生じるのを防ぐことにあります。
●高層ビルのサイト
前述のような一点接地の考え方は、高層ビルに設置されているサイトに対しても有効です。高層ビルは通常、鋼材の骨組みで建設されるため、一点接地用の接地パネルを建物の鋼材に接続する場所を探す手間はほとんどありません。もし建物が鋼材を用いて作られていない場合は、非常階段や消火栓の近くに機器を収納する部屋を配置するのが適当です。非常階段はビルと同じ高さにわたって、金属のシャフトが垂直に通っています。電力線のエントランス部を接地するためには、大型の銅製ストラップ、或いは750MCMケーブルを用います。消火栓はポンプのある水道本管の分岐点から、屋根まで通じる直径20〜30cmのパイプであり、ここも安全に運用するためにはポンプの部分にジャンパー線と電源用プロテクターを設置する必要があります。また電源ライン以外のコードについてもジャンパー線を用いてアースをとる必要があります。通常の電源ラインのアースに加えて、直接アースに接地する回路を設けることで、サージのエネルギーを速やかに逃がすことができます。室内の機器を保護するためには前述の一点接地を行なうのが唯一の方法です。
●屋上に取付けられたアンテナの接地
建物の屋上などに取付けられたアンテナは、接地用の独自の回路を構築可能な場合や、建物の管理者の承諾が得られる時には、消火栓や既存の接地回路などを用いて接地を行なう必要があります。(注意:ビル管理者は専用の接地回路を管理者自身の責任で維持する必要があります)この専用回路の代替としては、前述のように大型の銅のストラップか、750MCMケーブルを用いる方法があります。エレベータのシャフトを接地回路として用いる場合がありますが、雷撃時にエレベータ本体の基板を損傷すると損害額は大きなものになってしまいます。
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