「雷撃防護の基礎知識」
The "Grounding" for Lightning and EMP Protection
第11章:核爆発サージ(EMP)防護について
雷撃は局所的に大きな破壊をもたらす現象です。前章までは雷撃からの防護に関する情報を掲載してきましたが、本章では核爆発によって広範囲にわたる電子機器にもたらされる影響について解説いたします。
●電磁パルス
高高度における核爆発時に、極めて短い時間のうちに大量に放射されるガンマー線(高エネルギー電磁波)は、爆発領域の周囲に存在する気体分子を瞬時にイオン化(原子から電子を剥ぎ取る)させます。
自由電子が広範囲に拡散すると同時に、透過力の強いガンマー線は気体分子をイオン化させつづけながら遠方まで到達します。強制的に原子から剥ぎ取られた自由電子は、気体中の他の原子に再び捕獲され(コンプトンリコイル効果)、鋭いピークを持つ電磁場−EMP−を形成します。この電磁場は核電磁パルス(NEMP)とも呼ばれます。
NEMPパルスの持つエネルギーの99%以上は、10kHz〜100MHzの範囲に集中しており、その大部分は10MHz以下の帯域に存在します。(ちなみに雷撃のパワーが集中する帯域はDC〜1MHzです)
パルスの高速な立ち上がり時間(10ns)と短い継続時間(1µs)によって、全てのアンテナが直撃雷を受けたときのような共鳴を起こします。共鳴時の電圧振幅はアンテナが捕らえたエネルギーに依存します。アンテナの受電面積、アンテナパターン、共振周波数および帯域など全ての要因が励起電圧に影響します。
励起された電圧は伝送ラインを伝わって装置がある部分まで拡散してきます。アンテナと伝送ラインの特性インピータンスがEMPの全スペクトルを通じて一致することはないため、サージに対する防護措置を施していなければ伝送ラインにもEMPエネルギーが集中することになります。このエネルギーは伝送ライン内部で複雑な波形で伝播し、ラインの共振の状況によっては大きな電圧が励起されます。
こうして励起された高電圧はプロテクトションを行っていない機器にダメージを与えたり、伝送ラインやアンテナにアークが飛ぶ原因になります。ケーブルシールドの接地キットは低周波機器がライン上に直接暴露されるのを防ぎ、高電圧を励起する共振が発生する箇所を移動させる効果があります。
キャビティーはNEMPの被害を拡大させる原因になります。帯域幅の狭い(High Q)キャビティーは、装置に大きな共振電圧を励起する原因になります。Q値に依存した半波ショートスタブタイプのプロテクターは事態を悪化させるだけの効果しかありません。
反応時間50nsの雷撃用同軸アレスタは、NEMP発生時の10MHzを上回るような高速パルスには動作時間が緩慢すぎて役に立ちません。
●NEMPプロテクター
反応時間1〜7nsの専用同軸プロテクタでなければ、NEMPに対するプロテクト効果は期待できません。DC透過タイプ(ポリフェーザー社以外の製品です)のNEMPプロテクターは、プロテクタと機器の間に少なくとも3mの同軸ラインを介する必要があります。同軸ラインの伝播速度がプロテクタの動作時間を稼ぐ形になります。
(言うまでもなく同軸線の伝播時間を用いて時間を稼ぐこの方法は、立ち上がりの遅い通常の雷撃には効果がありません!)同軸ラインを介さずにNEMPプロテクターを装置に直付けした場合は、プロテクタが機能するために充分な大きさのドレインインダクタを受信機に組み込み、充分に励起電圧を低下させる必要があります。このドレインインダクターの大きさ(受信機の周波数帯域に依存)、最大電流/電圧、およびプロテクターの動作スレッショルドは、受信機の雷撃耐性に大きな影響を与えます。
DC伝導性の無いNEMPプロテクタ(ポリフェーザー社はこのタイプです)は、全てのアプリケーションにおいて特別な対策をとることなく使用可能であり、雷撃防護とNEMP防護の双方の効果があります。雷撃によって局所的に放射されるエネルギーのことを”雷撃電磁パルス”(Lightning Electromagnetic Pulse - LEMP -)と呼ぶことがあります。
●電源ライン
NEMP発生時の装置へのエネルギー入射は、同軸ラインによってのみ引き起こされるものではありません。
電源ラインはNEMPパルスに対してバンドパスフィルタのような挙動を示します。トランスは1MHz以下の帯域のエネルギーを減衰させると同時に、10MHz以上の帯域のエネルギーで容量性カップリングを起こします。位相間に接続された機器は危険性は低いといえますが、120Vac電源ラインに対して応答時間50ns以下のプロテクタを装着し、電源ラインからGNDに拡散する破壊的なエネルギーから機器を守ることが重要です。
●電話線/制御ライン
電話線やデータラインに用いられるツイストペアラインは、同軸線や電源ラインほどではありませんが、NEMPエネルギーに対してカップリングを起こす可能性があります。データラインの防護には、高インダクタンス/高抵抗でバランスの取れたコンフィギュレーションで、機器に流入するエネルギーの総量を抑える対策が施されます。容量をマッチングさせた金属酸化物バリスタがこうした用途でのNEMP対策には有効です。
NEMPパルスは、直撃雷とは有しているエネルギー量が異なります。NEMPパルスは長時間継続することが無く、雷撃時のピーク電流(20kA)レベルの大電流を発生させることもありません。しかしながら、NEMPの影響を受ける電源ラインが長い場合は、理論上50kAの電流が発生することもあります。NEMPの典型的なカップリング電圧/電流および立上り時間はこの章の前半に述べたとおりです。サージの立上り時間はサイトのカップリングインピータンスに依存しますが、このインピータンスは試験で静的に測定したものと、実際のパルス発生時の動的な挙動と異なる場合があります。
雷撃対策の接地技術は、そのままNEMP対策にも応用することができます。NEMP対策で考慮すべきことは、長い接続ラインにはNEMPによって大きなエネルギーが発生しやすいということです。また同時に長いラインは立上り時間が短いパルスの場合には電圧降下が大きくなります。こうしたカップリングの影響を低減するためには、ラインに対するNEMP専用のシールディングが有効です。建屋内の全ての装置を守るために最も効率のよい方法は、蚊帳のようにすっぽりと全体を導体のスクリーンで覆ったうえで、また、NEMPパルスを拡散させる接地システム効率よく構築するには、実際にGNDの動的試験を実施するのが唯一の方法です。
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